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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)38号 判決 1982年8月31日

控訴人(原告) 大洋自動車交通株式会社

被控訴人(被告) 府中市長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一求める判決

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が昭和四九年五月二二日付及び同五〇年三月二六日付で被控訴人に対してした京王線府中駅北口広場の利用認可申請につき、被控訴人が許否の決定をしないのは違法であることを確認する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項と同旨。

第二主張

一  請求原因(控訴人)

1  控訴人は、昭和三九年五月八日東京陸運局長から東京都府中市区域における一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けたタクシー業を営む株式会社であり、同市八幡宿北七、九三九に営業所を設け、京王線府中駅周辺をその営業基盤としている。

被控訴人は普通地方公共団体である府中市の市長である。

2  府中市は、昭和四九年四月京王線府中駅北口に広場(以下「本件広場」という。)を開設し、タクシー乗降所を設置した。右本件広場は、地方自治法二四四条にいう「公の施設」に該当し、同法一四九条七号の規定により被控訴人が管理権を有するものである。

3  そこで、控訴人は、被控訴人に対し、府中市総務部安全対策課長の教示に基づいて、昭和四九年五月二二日付及び同五〇年三月二六日付の各文書(以下、「本件各文書」という。)をもつて、本件広場の利用(タクシー乗入れ)の認可申請をした。

4  ところが、被控訴人は、控訴人の右認可申請について、未だに許否の決定をしない。

5  よつて、控訴人は、行政事件訴訟法三条五項の規定に基づき、被控訴人が右許否の決定をしない不作為が違法であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否(被控訴人)

1  請求原因1のうち、控訴人がタクシー業を営む株式会社であり、その主張の場所に営業所を設けていること及び被控訴人の地位は認めるが、その余の事実は知らない。

2  同2のうち、府中市が本件広場を開設し一般の供用が開始されたのは、後記のとおり昭和五〇年一〇月一日であつて、同日以降についての主張事実は認めるが、右同日前についての主張事実は否認する。

3  同3のうち、控訴人が本件広場の利用に関し本件各文書を被控訴人宛に提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。右各文書が「認可申請」に該当しないものであることは後記のとおりである。

4  同4は認める。

三  被控訴人の主張

1  本件広場は、左記のとおり、控訴人主張のような「認可」の対象となるものではない。

(一) 京王線府中駅北口前の広場、すなわち本件広場は、昭和四九年一月当時、訴外京王帝都電鉄株式会社(以下「京王帝都電鉄」という。)の所有に属し、専ら京王帝都電鉄のバス発着所及びその子会社である訴外京王自動車株式会社(以下「京王自動車」という。)のタクシー乗降所として利用されていたところ、府中市において都市計画に基づく東京都府中市計画三本木土地区画整理事業の一環として、右広場及びその北側から国道二〇号線(甲州街道)への出入口となる道路を公共施設として整備してバス・タクシー等の乗降発着用の駅前交通広場と都市計画道路(一等大路第二類第二号府中駅北口線。以下「本件計画道路」という。)を築造することとなつた。

ところで、一般に土地区画整理事業によつて道路、公園、広場等の公共施設を整備するにあたつては、その早期整備が望まれるところから、築造予定地が更地の多い場所である場合には、仮換地指定に先立つて当該土地を所有者から事業施行者が借り受けて施設の築造に着手し、もつて、事業の円滑な進行を図ることが多いが、本件広場の築造についても、施行者である府中市は、京王帝都電鉄の承諾を得て、その敷地を本件区画整理事業の遂行上必要な限度で、昭和四九年一月一日から仮換地指定の効力が発生する日の前日まで無償で借り受け、工事に着手した。その結果、本件広場の整備は進み、全体の整備完成を待たずにバス及びタクシーの乗降所等が暫定的に設置されるまでに至つたものである。

しかし、本件広場から国道二〇号線への出入口となるべき本件計画道路予定部分の敷地は京王帝都電鉄のほかに訴外高木秀男、同高木邦夫が所有し、その部分の借受けについて、右高木両名の協力が得られなかつたため、都市計画通りの幅員三〇メートルの本件計画道路が完成し、本件広場全体が公の施設として一般に供用されることとなつたのは昭和五五年一〇月一日である。控訴人主張の昭和四九年四月から右同日の前日までの間は本件計画道路部分は未完成であつて、その間は本件広場も、国道との間の取付道路が幅員一一メートルしかないことの制約を受けて暫定的に整備したに過ぎないものであつたので、土地区画整理事業施行者たる府中市は、右道路が計画通り幅員三〇メートルに拡幅されると同時に、これに対応してタクシー等車両の駐車場、バス及びタクシーの各乗降所、照明灯、植込帯、歩道の位置等の変更工事を施してこれを完成させ、前記日時に一般に供用開始したものである。

右のとおり昭和四九年一月一日から本件広場が完成して公の施設として一般に供用された昭和五五年一〇月一日の前日までは、本件広場は公の施設としては未完成であり、右の期間その管理にたずさわるのは土地区画整理事業施行主体たる府中市であつて、普通公共団体としての府中市にはその管理権はなかつたのであり(土地区画整理法一〇五条、一〇六条)、それと同時に、右の期間、本件広場は未完成であつていまだ地方自治法二四四条にいう「公の施設」ではなかつたのであるから、控訴人主張の「認可」の対象となるものではなかつた。

(二) 本件広場が完成し、一般の供用に開始された昭和五五年一〇月一日以降その管理権は普通公共団体としての府中市に属することとなつたが、被控訴人は、本件広場の工事自体が完成し、事実上その移管を受けると同時に、本件広場及び完成した本件計画道路について、昭和五五年九月府中市議会の議決を経てそれを一括して道路法に基づく市道・府中駅北口線として告示したうえ前記のとおり同年一〇月一日から一般に供用したものであつて、それ以後は本件広場は公の施設である府中市道路として一般に自由に使用されており、何人もその使用については何らの認可申請をも必要としない。したがつて、タクシー業者である控訴人が本件広場にタクシーを乗り入れて使用するには被控訴人に対し法令に基づく認可申請を必要としないのであるから、被控訴人が何らかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべき場合に該当せず、被控訴人には行政事件訴訟法三条五項にいう不作為はない。

なお、本件広場においてのタクシー営業については、交通安全対策上警察の指示に基づき行政指導として広場における同時駐車台数を一二台に制限し、広場に駐車待機中のタクシーは到着順に発進して乗客乗場で乗客を乗せることとしているが、それ以外には何らの制限も存せず、道路占用許可願い等も全く必要としないものである。

2  控訴人が被控訴人宛に提出した本件各文書は、その標題、内容等からみて、単なる被控訴人に対する陳情としか解しえないものであり、控訴人主張のような認可申請とみることはできない。また、本件広場においてタクシー業者が営業するについては前記のとおり何らの認可も必要としない。したがつて、いずれの点からしても、控訴人の本件各文書は行政事件訴訟法三条五項に規定する「法令に基づく申請」ということはできず、本件訴えは不適法である。

四  被控訴人の主張に対する認否

被控訴人の主張1の(一)のうち、本件広場が昭和五五年一〇月一日の前日までは未完成で地方自治法二四四条の「公の施設」ではなかつたとの点は否認し、それ故に右前日まで被控訴人には本件広場の管理権がなかつたとする点を争い、その余の事実は認める。

同(二)のうち、本件広場及び完成された本件計画道路に関して被控訴人主張のとおりの府中市議会の議決、被控訴人の告示があつたこと、右道路が道路法にいう道路となつて昭和五五年一〇月一日から一般の供用に開始された点は認め、その余は争う。

五  控訴人の反論

1  本件各文書の趣旨は、要するに、本件広場に他社のタクシー乗入れが認可されているのであるから、控訴人営業所のタクシーが本件広場に乗入れすることの認可を求めるというものであり、単なる陳情書ではない。もつとも、右のうち昭和五〇年三月二六日付文書のなかには、陳情の字句が使用されているが、これは府中市総務部安全対策課長の教示に従つたまでのものである。

2  本件広場は、昭和四九年四月に府中市により開設され、それ以降タクシー乗降所としての機能を完全に果たしているのであつて、被控訴人主張の開設時期である昭和五五年一〇月一日の前後を問わず、府中市の公の施設として、その管理権は被控訴人に属するものといわなければならない。

3  被控訴人は、昭和四九年四月以降本件広場について、いずれのタクシー業者にもその使用許可等を与えたことはないと主張するが、事実に反している。すなわち、府中市は、昭和四九年三月二八日本件広場の利用について協議するため同市内で営業している控訴人その他のタクシー業者を同市役所に集め、予め京王自動車と相談のうえ決めた一〇台ないし一二台の乗入れ案を示し、各業者の意見を徴したところ、「府中市に本社のある会社を主として考えるべきである。」との発言があつたので、控訴人はこれに反対した。そのため、結論をみるにいたらず、さらに会合を重ねることとなつて散会したが、その後、府中市当局は、会合を開かずに控訴人を除外して京王自動車及び当時府中市に本社を置く三社のみと協議してその乗入れを決定したのであつて、昭和五五年一〇月一日前にも被控訴人が京王自動車ほか三社に本件広場のタクシー乗降所利用の認可(京王自動車九台、ほかの三社各一台)を与えたことは明らかである。

仮に右自動車会社の選定及び台数の割当てについて被控訴人が直接関与せず、京王自動車が中心となつて取決めたものであつたとしても、被控訴人はその結果の報告を受けて承認し、これを認可したものである。さらに控訴人の府中営業所長が本件広場の乗場のタクシー使用につき被控訴人の総務部安全対策課長に相談したところ、同課長は、右使用についての許可申請を提出するようにと教示したので、控訴人はそれに従つて本件各文書を提出した経過からみても、被控訴人が京王自動車ほか三社に対し本件広場を使用するについて認可を与えていることは明らかである。

また、被控訴人は右昭和五五年一〇月一日以後も京王自動車ほか数社に本件広場使用の認可を与えている。

4  昭和五五年一〇月一日以降、控訴人の府中営業所長らが本件広場に営業のためタクシーを乗入れたところ、他社のタクシー運転者に取り巻かれて「自分らは市の許可を受けて広場に入っているのだが、君らは市の許可を受けているのか」と文句を言われた事実があり、控訴人は本件広場で自由な営業ができない状態におかれており、控訴人が本件広場で自由に営業するには被控訴人の認可が必要である。

第三証拠<省略>

理由

一  控訴人が府中市内に営業所を設けてタクシー業を営む株式会社であり、被控訴人が普通地方公共団体府中市の市長であること、本件広場及び完成した本件計画道路が昭和五五年一〇月一日以降道路法による認定及び公示を経た府中市道路であつて、一般に供用されている地方自治法二四四条にいう「公の施設」に該当し、同法一四九条七号の規定により被控訴人がその管理権を有すること並びに控訴人が被控訴人に対し昭和四九年五月二二日付及び同五〇年三月二六日付の本件各文書を提出していることはいずれも当事者間に争いがない。

また、本件各文書が、控訴人から被控訴人に対する本件広場についての認可申請書であると認めるのが相当であることは、原判決中のこの点に関する説示(原判決一五丁表四行目の「まず」から同裏八行目末尾まで)と同じであるから、これを引用する。

二  そこで、本件広場の完成時期及びその経過について検討する。

いずれも原本の存在と成立に争いのない甲第三号証、第四号証、乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし六、成立に争いのない乙第一三、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証、原審における証人篠塚勇の証言により成立を認める乙第一ないし第四号証、同証人吉野悦男の証言により原本の存在と成立を認める乙第五、第七号証の各一ないし三、いずれも本件広場の写真であることは争いがなく、その撮影年月日については原審及び当審における証人武田清英の証言によりこれを認める甲第一一ないし第一三号証、第一九、第二二号証の各一、二及び原審における証人清水豊夫、同吉野悦男、同篠塚勇の各証言並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、それに反する証拠はない。

1  府中市は、京王線府中駅北口を含む同市の約九九万平方メートル(三〇万坪)の都市計画区域内の土地について公共施設の整備改善等のため本件区画整理事業を施行することとなつたが、右都市計画においては、国道二〇号線から府中駅北口に通じる道路として幅員三〇メートル、延長約四〇メートルの本件計画道路を開設し、かつ、右道路に続く府中駅北口前に面積約三六〇〇平方メートルの本件広場を設置すべきことが定められ、本件広場は、独立の施設としてではなく、本件計画道路が府中駅北口前で行止まりとなるところから、車両の折返し等のために本件計画道路に付属する交通広場として設置される施設であり、両者は一体をなすものとされていること。

2  本件広場の敷地は京王帝都電鉄の所有であることから、従前は専ら同電鉄のバスの発着所及び同電鉄の子会社である京王自動車のタクシー乗降所として利用されていたものであり、本件区画整理に伴い京王帝都電鉄に対しては将来他の場所に仮換地が指定される予定であつたが、府中市は、交通対策上仮換地指定の手続をとる前に本件広場の整備をするため、本件広場の敷地の利用につき京王帝都電鉄と交渉した結果、昭和四九年一月一日から当該敷地についての仮換地指定の効力が発生する日の前日まで右敷地を本件広場及び本件計画道路の築造のために府中市が無償で一時使用することを京王帝都電鉄が承諾し、本件広場の築造・整備が終了したときは、京王帝都電鉄のバス及び京王自動車のタクシーが従前どおり右広場に乗入れすることになつたこと。

3  そして、本件区画整理事業施行者たる府中市は、本件広場の築造・整備工事に着手し、バス、タクシーの各乗降所や照明灯の設置、街路樹の植樹、舗装も一応終了し、昭和五二年七月一五日作成の本件広場現況図(乙第二号証)に記載の通りの状況とし、昭和四九年四月から暫定的に使用を開始して、同年四月一五日発行の府中市の「広報ふちゆう」で右使用開始を市民に知らせるとともに以後の継続工事に対する市民の協力を呼びかけたこと。

4  右のようにして工事が進められた結果、本件広場及び幅員三〇メートルの本件計画道路が次第に完成に近づいたが、その後、府中市は、本件広場完成に伴う暫定工事の改修工事を施行してタクシー等の駐車場、バス・タクシーの各乗降所、照明灯、植込帯、歩道の位置等を変更(前掲乙第二号証から同乙第一五号証の二のとおりに変更。)したこと。

5  かようにして本件広場を含む計画道路が事実上完成し、これに伴う移管手続が進捗したため、被控訴人は昭和五五年九月八日府中市議会に対し右道路につき、その路線名を府中駅北口線とし、起点に接続し地続三、〇一九・八八平方メートルの付設広場を含む府中市道路線の認定を求める議案を提出したところ、同月一九日右議会の議決を得たので、同月二五日に右市道認定の告示、該道路区域の決定の告示、右道路の供用開始の期日を昭和五五年一〇月一日とする告示をして、右一〇月一日から一般に供用を開始したこと。(なお、1のうち、本件区画整理事業は府中市が府中駅の北口駅前広場を含む都市計画区域内の土地について施行するものであること、2のうち、本件広場敷地の所有、利用関係及び府中市がこれを無償で使用することになつたこと、3のうち、当時本件広場にバス・タクシーの各乗降所が設置されていたこと、5のうち、本件広場及び完成された本件計画道路につき府中市議会の議決があつたこと、被控訴人が各公示をしたこと、右道路が昭和五五年一〇月一日から一般の供用に開始されたことは、いずれも当事者間に争いがない。)

以上の経過をたどつて、前記のとおり本件広場及び本件計画道路が一体となつて昭和五五年一〇月一日府中市の地方自治法二四四条にいう「公の施設」として一般に供用が開始されたものである。

三  そこで、控訴人が被控訴人に対し、昭和四九年五月二二日付の本件文書を提出してから、本件広場が一般の使用に供されることとなつた前日の同五五年九月末日までの期間において、本件広場が地方公共団体たる被控訴人の公の施設に該当するかについては、当裁判所もこれを消極に判断するものであるが、その理由は原判決中の右の点に関する説示(原判決一五丁裏九行目から二三丁裏末行の「ものである。」まで)と同じであるから、これを引用する。したがつて、右の期間においてその違法を原因とする本件訴えは、実体法上の判断をするるまでもなく、不適法として許されないところである。

四  次に、本件広場が、一般に供用が開始された前記昭和五五年一〇月一日以降タクシー業者が本件広場においてその営業を行うのに被控訴人の認可が必要か否かを検討する。

前記当事者間に争いのない事実及び前記認定事実から明らかなとおり、本件広場及び完成した本件計画道路は一体として、道路法に定めるところの府中市道路線・府中駅北口線として昭和五五年一〇月一日から一般に供用されているのであるから、道路法上の道路である限りその使用については市制定の条例又は道路交通安全確保の観点からの公安委員会等による必要最少限度の特別の規制が無い限り、原則として何人も何らの制限を受けずに通常に使用することができるものといわなければならない。本件広場については、当審における証人武井清英の証言及び弁論の全趣旨により、交通安全対策上タクシーの一時的駐車台数を一二台とする規制が行政指導としてなされていることが認められるのみで、それ以外に何ら特別の規制がなされているとは認められない。したがつて、控訴人が本件広場においてタクシー営業を行うについては右の駐車台数の事実上の制限に服するのみで、何ら被控訴人の認可等を必要としないものといわなければならない。また、本件広場の使用について、市条例等でその使用許可申請制度等が定められている事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、控訴人は、本件広場が公の施設として一般に供用される前から以後にかけて、被控訴人が京王自動車ほか三社のタクシー営業者に本件広場において営業のため使用する許可を与えている旨主張し、原審及び当審における証人武井清英はこれに沿う証言をするが、前掲各証拠及びそれにより認められる前記認定事実に照らせば右証言はたやすく採用できないところであり、また、同証言により原本の存在及び成立が認められる甲第三〇号証並びに同証言(右供述部分を除く。)によれば、京王自動車が本件広場完成後、被控訴人宛の「道路占用許可願」を作成し、控訴人にもその書面に「判を押してくれ」と要求してきたが控訴人はこれを断つた事実が認められるが、前記認定事実に照らせば、右事実はタクシー業者が「道路占用許可願」を作成・提出しなければならない根拠を推認させるものということができず、また、仮に京王自動車ほかのタクシー業者が右のような書面を提出したとしても、被控訴人がこれに対し許可を与える権限を有し、その権限に基づいて許可を与えたと認めるに足りるものと評することもできない。他に右主張を認めるに足りる的確な証拠は存しない。

五  ところで、控訴人は行政事件訴訟法三条五項に基づいて、控訴人の「申請」に対する被控訴人の不作為の違法確認を求めているのであるが、その要件としての申請権は、右条項にいう「法令に基づく申請」であることを要するが、これは法令上に当該申請制度が明文で規定されている場合に限らず、現行法制の条理解釈として、右の制度に関連し行政庁が特定の者に対し応答義務を負うような申請権が付与されていると認められる場合をも含むものと解されるところ、本件広場の使用については前記のとおりその使用の許可申請制度については明文の規定がなく、また前記認定の諸事実に照らせば条理解釈としてもタクシー業者たる控訴人において、その業務を行うにあたり本件広場の使用許可を求めた場合に、被控訴人がそれに対し応答義務を負うような申請権があるとは、とうてい認められない。したがつて、控訴人の本件各文書は「法令に基づく申請」ということはできず、その不作為の違法確認を求める本件訴えは右の要件を欠くので、その余の点の判断をするまでもなく、不適法というべきである。

六  よつて、本件訴えを却下した原判決は、その結論においては相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣學 磯辺喬 松岡靖光)

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